TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

沢木耕太郎をめぐる旅

      2017/06/04

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最も尊敬しているライターは?
そう聞かれたら、ぼくは「沢木耕太郎」と答えるだろう。

沢木耕太郎といえば「深夜特急」。多くの人と同じように、ぼくもそう思っていた。深夜特急しか読んでいなかった。少し違うとすれば、本当に「ユーラシア横断」の旅に出てしまったことだろうか。21歳のころである。しかし、これもまた少なくない人が深夜特急の「熱」に浮かされて、同じような旅に出ていることだろう。

しかし、旅を書く仕事をはじめてから、あらためて「凍」「人の砂漠」「流星ひとつ」「バーボン・ストリート」「彼らの流儀」と、散発的に他の著作を読んでみた。そして、新たな「熱」に浮かされることとなった。ノンフィクションの書き手としての凄みに、である。

一冊、一冊、まるで書き方が違うのだ。

その姿勢は、野球という道を極めようとした榎本喜八のようである。あるいは、映画の完成度を極めようとしたスタンリー・キューブリックのようでもある。沢木氏は「テーマ」を変えては、新しい「文体」を手に入れ、それをストイックに完成させている。

「ストイック」と書いたが、これは氏の著作を貫く姿勢のひとつだろう。『自分が事実ではないと知っていることを事実として書かない』というのは、氏がノンフィクションを定義するときに述べた言葉であるが、ぼくにはそれが深い問いに思えた。それが本当にできているか?と。

そして、みなさんはお気づきだろうか? Wikipediaにある文章の多くに沢木氏の文章が使われていることを。たとえば、先ほど「榎本喜八」の名を出したが、「え、誰?」とWikipediaで調べた人もいるかもしれない。そこに書かれている内容には、沢木氏が「さらば 宝石」というタイトルで書いた文章が、かなりの部分で引用されている。氏のストイックなノンフィクションはかくも事実に近いのだ。

これは、氏の著作を年代順に読んでいかねばならぬ。沢木耕太郎という人物を理解したい。その軌跡を追跡したい。そうの思いが沸点に達するまで、そう時間はかからなかった。

沢木耕太郎の著作をめぐる旅をすることで「研究」し、そしてマネをすることで「実践」し、自分だけのテーマや文体を手に入れて「応用」していくこと。ライターとして、これ以上の鍛錬はない。沢木耕太郎の著作こそが「ノンフィクションの教科書」たりうるのだ。

「どうすれば、沢木耕太郎のような文章が書けるようになるのか?」

この特集は、その一点を追い求めて書いていく。テーマの見つけ方、インタビュー術、文体、姿勢、さまざまな学びが得られるはずだが、求めるべくはその一点。

もうひとつを挙げるとすれば、現時点のぼくは、沢木耕太郎はとてつもなく気難しい人物に思える。しかし、取材でインタビューしているときの氏は、人当たりのいい陽気な人物のように思える。この二面性とも言えるギャップを埋めて、一人の人物として氏を理解することができるか。そこにひとつの核心を持てたとき、氏に、まだ見ぬ師に会いに行く。

そして、「ぼくも横浜国立大学の在学中に、沢木耕太郎さんの本を読んだことがキッカケで旅に出ました。そして今も旅を書いています。」そう言ってお礼を伝えたい。それができたら、これ以上の喜びはない。

沢木耕太郎の処女作は「防人のブルース」、あるいは、大学在学時の「カミュ論」という人もいるかもしれないが、ぼくは書籍の発行順に辿っていきたいと思う。氏は遅筆だというが、さすがに多作である。長い旅になりそうだ。

 

『若き実力者たち 現代を疾走する12人』(1973年)
『敗れざる者たち』(1976年)
『人の砂漠』新潮社(1977年)
『テロルの決算』文藝春秋(1978年)
『地の漂流者たち』(1979年)
『一瞬の夏』新潮社(1981年)
『路上の視野』文藝春秋(1982年)
「紙のライオン」「ペーパーナイフ」「地図を燃やす」文庫(3分冊)
『バーボン・ストリート』新潮社(1984年)
『深夜特急 第一便 黄金宮殿』新潮社(1986年)
『深夜特急 第二便 ペルシャの風』新潮社(1986年)
『馬車は走る』文藝春秋(1986年)
『王の闇』文藝春秋(1989年)
『チェーン・スモーキング』新潮社(1990年)
『彼らの流儀』朝日新聞社(1991年)
『深夜特急 第三便 飛光よ、飛光よ』新潮社(1992年)
『象が空を 1982~1992』文藝春秋(1993年)
「夕陽が眼にしみる」「不思議の果実」「勉強はそれからだ」文庫(3分冊)
『檀』新潮社(1995年)
『天涯』全3巻 スイッチパブリッシング、1997-2003
『オリンピア〜ナチスの森で』集英社(1998年)
『貧乏だけど贅沢』文藝春秋(1999年、対談集)(2012年)
『血の味』新潮社(2000年、初の長編小説)
『世界は「使われなかった人生」であふれてる』暮しの手帖社(2001年)
『イルカと墜落』文藝春秋(2002年)
『シネマと書店とスタジアム』新潮社(2002年)
『沢木耕太郎ノンフィクション』文藝春秋(2002年 – 2004年)
『一号線を北上せよ』講談社(2003年)
『無名』幻冬舎(2003年)
『杯 WORLD CUP』朝日新聞社(2004年)
『冠 OLYMPIC GAMES』朝日新聞社(2004年)
『凍』新潮社(2005年)
『危機の宰相』魁星出版(2006年)
『「愛」という言葉を口にできなかった二人のために』幻冬舎(2007年)
『246』スイッチ・パブリッシング(2007年)
『旅する力──深夜特急ノート』新潮社(2008年)
『あなたがいる場所』新潮社(2011年)
『ポーカー・フェース』新潮社(2011年)
『月の少年』浅野隆広絵 講談社 2012
『キャパの十字架』文藝春秋(2013年)
『流星ひとつ』新潮社(2013年)
『わるいことがしたい!』ミスミヨシコ絵 講談社 2012
『いろはいろいろ』和田誠絵 講談社 2013
『旅の窓』幻冬舎 2013
『ホーキのララ』貴納大輔絵 講談社 2013
『波の音が消えるまで』新潮社 2014
『キャパへの追走』文藝春秋 2015
『銀の街から』朝日新聞出版 2015
『銀の森へ』朝日新聞出版 2015

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