大宅壮一ノンフィクション賞受賞「テロルの決算」
2017/05/28
テロルの決算★★★
1960年に起きた「浅沼稲次郎暗殺事件」。
犯人は山口二矢。二つの矢と書いて「おとや」と読む。この美しい名を持つテロリストは若干17歳であった。そのときの映像はYoutubeに残されている。
沢木氏が取材をしたのは、それから20年近く経った頃のことである。初の長編にも関わらず「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞した。
恐れ入るのは取材の量だ。浅沼稲次郎も山口二矢も20年前に死亡している。そこで、どうするか。2人を取り巻くあらゆる人物に取材をすることで人物像を浮き彫りにしていくのだ。
序章では、この事件を振り返っている。時間が経ったとはいえ、その映像は当時を生きるすべての人の中に残っていることだろう。沢木氏はそのワンシーンに着目した。
それは山口二矢が三突目に入ろうとしたときに、その担当を掴んで制止した人物がいた。そのとき、山口二矢はこう考えたのではないかと仮定する。「このまま強引に手を動かすと、掴んでいる男の指を落としてしまう。」山口二矢はそれをためらい、手を離したのではないか。ここに、ただの野蛮なテロリストではない犯人の人柄が出ているのではないか、と。
ここだ。ここに目をつけられるか、だ。
沢木氏はここから、「夭折」した山口二矢の人柄が浮き彫りにしていく。テーマは「最高の瞬間」。最高の瞬間を追うことはノンフィクションの基本のひとつだ。