糞尿博士・世界漫遊記/中村浩
タイトルからして珍妙だが、この本、めちゃくちゃおもしろいゾ。
中村浩さんはウンコ研究の第一人者。幼い頃からウンコに異常な執着を見せていたようだが、何より未来の地球の人口爆発と食糧危機を予見して、「ウンコでパンをつくる」プロジェクトに本気で取り組んできた人だ。研究はクロレラの培養にたどり着き、池にウンコを打ち込むだけで無限に増えるクロレラだけを食べてアリゾナ砂漠で3ヶ月生き延びる実験を成功させたりもしている。
それも戦後まもない時代の話である。中村さんの研究は、旧ソ連の宇宙開発チームに注目されて招聘されたりと世界各地を旅していた。その旅っぷりが実に愉快痛快なのだ。白洲次郎のスマートなオジサマ感に比べると、中村さんはずんぐりむっくりのオッチャン感。肖像を拝見していないので文章から受ける印象でしかないのだが、博識に裏付けされたユーモアに溢れていて、ウンコという世界共通のネタがありつつも、世界中の人たちを笑わせまくってきたようだ。
たとえばイタリアに行ったときのこと。米を食べる日本人は世界一の大グソ民族らしく、マカロニを食うイタリア人が世界二位だというが……
「南洋のガダルカナル島を死守していた日本軍に、アメリカの海兵隊が総攻撃をかけてきたことがあります。かれらは、海岸にある日本軍基地を艦砲射撃で叩きつけておいて、偵察部隊を上陸させました。もちろん、わが日本兵はスタコラサッサと密林のなかに逃げ込みました。敵の偵察部隊は、どのくらいの数の日本兵がいるか、ということを探知する任務をおびていたのですな。かれらは、おそるおそる上陸して、まず日本軍基地の便所をしらべました。そして、たまっているクソの量から、敵の兵力はおよそ二千人と判断したのでした。つづいて、物量にものをいわせた総攻撃がはじまり、二千の日本兵を叩きのめす砲弾の雨が密林にふりそそいだのです。ところがです、アメ公たちは、日本人が大グソをたれる人種であることをご存知なかった。かれらが二千人とふんだのは、じつは二百人だったのです。さしも勇敢なるわが日本兵も、アメ公のこの大ゲサな総攻撃で、皆殺しの憂き目をみたのです」
ほかには……
「人間的頽廃のなかから芸術が生まれた。淫売窟のなかから文学が生まれ、スラム街の貧困のなかに絵画が生まれ、浮浪者のあいだに音楽が育った。これらの芸術は、のちに貴族や王侯の所有物となったが、これらを創造した人間は、ひとしく垢にまみれ、社会的汚濁のなかいあえいでいた人たちではなかったか。宗教もまたしかり、キリスト教は馬小屋のなかに芽生えたのではなかったか。つまり、汚濁は、人間的想像力の培養基にほかならない」
ウンコという専門知識をユーモアに変えて世界中の人たちと渡り合う。それはもう本当にカッコよく思えてくる。スミマセン、この本はもう一度読み返さないと消化しきれません。とにかく、人生を通してオススメし続けるであろう本と出会えてしまった。このレビューはのちに更新しようと思います。