TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

なぜ日本人は、こんなに働いているのに お金持ちに なれないのか?/渡邉賢太郎

      2015/05/26

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証券会社で働いていたという著者が2年40カ国を旅して書いた本。「お金について学ぶために、世界を旅する。」その切り口があったか!と考えさせられる新しい旅のカタチ。リーマンショックを前に「お金とは何か?」という問いに答えられない自分を目の当たりにして旅に出ることを決めたそう。著者のようにこれまでの人生や職業に基づいた旅をすることでオリジナリティのある旅になるかもしれません。

 

この本は「日本人はお金について無知すぎる」という導入からはじまります。イングランド中央銀行の博物館には、インフレとは何かが体感できるゲームがあり、子供たちがそれで遊んでいる。お金についての教育を幼い頃から受けているのです。また、インドでは。シリコンバレーの4人に1人がインド人と言われるほど優秀なビジネスマンが多いのは、数学に強い、競争を勝ち抜いてきた、という理由のほかに、「値札がない世界で生きてきた」「幼い頃から交渉を続けてきた」という理由があるという。ちなみに「定価」という概念をつくたのは、実は日本人で、三越だと言われているそう。

 

ここでおさらい。サブプライムローンとは、アメリカのある金融業者が「住宅価格が上昇し続ける」ことを前提とし、収入の不安定な人々に甘い審査でローンを組ませ、高い金利でお金を貸し続けた。お金を貸してあげるから、家買っちゃいなよ。もし収入が減って計画通りにお金が返せそうになくても、そのときには家の値段があがってるから、それを売って返せばいいじゃん!」という理屈。日本のバブルと同じだなぁと思うとともに、著者の書き口、その分かりやすさに脱帽した。

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今でこそ、物書きなど好きなことをして生きている人がいるが、昔は本を書くだけではなく、畑仕事もやらなければ社会において役立たずだった。それを変えたのが紙幣。人間は紙幣を発明してはじめて、好きなことを仕事にする自由を手にいれた。ではお金の成り立ちとは、どうなのか。ここが最も感銘を受けた。これまで何冊かの本を読んできたけど、はじめてちゃんと理解できた。それほど分かりやすく書かれている。これから書くのは、ぼくの頭の中の整理であり、ぜひ本を手にとって原文を読んでいただきたい。

 

物々交換だったのが金銀の交換になり、重さを測るのが面倒なので鋳型に溶かしてコイン状になった。これが貨幣。経済が成長するにつれて金銀が足りなくなり、銅などを混ぜるようになった。ここで、信用が揺らぎ始めた。金の純度が分からないから信用できない!そこで、お金は時の権力者の信用に重ねられた。いざというとき、侵略してでも取り戻せる安心感のことだと思う。こうしてお金は「他者を支配する道具」という側面を持ち始め、お金と権力の密接な関係が生まれた。その後、銅すらも足りないし、重くて持ち運ぶのが面倒ということで、小切手が生まれた。紙幣誕生の瞬間である。大航海時代に世界中の金を集めたイギリスで金本位制度が誕生。「いつでも金と交換するよ!」と最大規模で紙幣を発行したのだ。その後、ヨーロッパは戦争に明け暮れ、武器を売っていたアメリカに紙幣が金もろとも紙幣が集中、覇権が変わる。その後、盛り返してきたヨーロッパや日本、ベトナム戦争での失敗により、紙幣が金の量を上回り、俗に言うニクソンショック「もう金とは交換しません!宣言」が起こったのだ。晴れて紙幣は紙切れとなったわけである。そこにはもう確固となる担保は存在しません。あやふやな概念としての「信用」をもとに成り立っている。つい最近の話です。

 

では「信用」とは何か?日本円なら、1つ目が発行元である日本銀行への信用。2つ目が受け取ったお札に1万円の価値があるという信頼。お札がボロボロで使えないかもしれない場合はこれが成り立たない。3つ目が商店がその価値を信じて受け取ってくれるという信頼。ぼくがインドで一文無しになったとき、これは日本の1万円札で、インドでいうと5300ルピーの価値があるんだ!だから両替してご飯を食べさせてくれ!と言っても信じてもらえなかった。そういうことだ。

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世界の見方が非常におもしろいなと思ったのが、途上国に行った際に一人当たりのGDPから日本のどの時代に当てはまるのか考える方法。たとえばイラン。人口はおよそ7600万人。一人当たりのGDPは4768ドル。これは、日本の1970年代前半、第四次中東戦争によりオイルショックを経験するころにあたる。日本と質の変わらないソフトクリームが22円、産油国なのでガソリン代は50円という安さ…と言った理解。わかりやすくないですか?たとえば中国。GDPは世界2位の9兆4690億ドル。とはいえ、人口が日本の10倍なので国民一人当たりのGDPは6958ドル。これは日本の1970年代後半にあたる。大橋巨泉のクイズダービーが放映されていた時代だ。たとえばベトナム。人口は9170万人。一人当たりのGDPが1902ドル。日本でいえば1960年代後半から70年代前半。大阪万博が開催され、一般家庭にカラーテレビや乗用車が普及しはじめたとき。確かにベトナムは高度成長期の勢いを感じる国だ。ただし、先進国には当てはまらないようだ。デンマークは560万人だが一人当たりのGDPは5万9129ドルで、日本やアメリカより高い世界6位。日本の未来として見れたら面白いのかもしれません。

 

そして、結論へと収束していく。世の中には4種類の人がいる。幸せなお金持ち。お金持ちだけど幸せじゃない人。お金がないけど幸せな人。お金もないし幸せでもない人。お金があることは「幸せ」の絶対条件ではない。でも、お金があると「他者の時間」を使うことができる。お金持ちは他者を動かすパワーを大量に持っている。たとえば、一流デザイナーの建築物に住むと、たくさんの人を動かすことになる。ピラミッドの時代と仕組みは何も変わっていない。お金持ちになるという本質的な意味は、人間が持つ平等で絶対の資産である「時間」を自らのものとして使えるということだったのだ。

 

先ほど出てきたデンマーク。この国では、日本人と同じくらい稼ぐのに、世界でも最も労働時間が短い。働きマンとされる人でも17時には帰って家族や友人とワイワイやる。ある意味では、バングラデシュも時間の使い方は同じ。経済的な裕福さと、家族や友人を大切にする時間の長さは別の話なのだ。日本ではそのバランスを崩している人が著しく多い。なぜか。それは、お金についての教育を受けずに育ち、「お金を稼げば、とりあえず幸せになれる」という観念が存在しているから。歴史を遡れば、天災が多すぎる、かつ島国で移動も難しかった日本では、古来から地域コミュニティと密接だった。村八分や姥捨山という言葉にその名残を感じさせる。隣の家を建てる時、一生懸命、協力しておかないと、自分が困った時どうなるかわからない。近代になり、わずらわしい地域コミュニティから逃れられるようになったが、その自由のために必要なのがお金になってくる。つながりを失くしてしまった東京人は、自由をキープするためにお金に頼るしかなくなってきているのだ。おもしろいことに、今でも長野では雪かきは強制参加。参加しない場合は「出不足金」と呼ばれお金を払わねばいけないそう。

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「ハローのあとに続くのは、マネーという言葉。」というフレーズも印象に残った。寄付をもらうことが目的になってしまっている国もある。本来お金は信用の産物であり、出会えてよかった、ありがとうという信用から支払われ、それによりお金を超えた幸せを生みだすもの。ボッタクリをする人たちもお金に支配されている。繰り返しになるが、お金は信用の媒介物である。短期的な視点で手に入れることを目的にするのではなく、道具として使って信用を構築するためのある。営業マンが下請けなどから買い叩いてはいけないのと同じである。投資と投機の違いもはじめて知った。投資は信用して期待すること。電気自動車に可能性を感じるから信用して投資する。クラウドファンデイングで投資の感覚を味わった人も多いのではないだろうか。逆に、投機はチャートに注目して数字で考えて空売りしたりすることだという。

 

バブルとは投資によってはじまり、投機によって加速される。敏感な投資家が将来の価値に比べて、現在の価格が低ければ安いうちに買おうとする。しばらくすると、今度は買えば儲かるから買うという投機家が参入する。すると実態価値を超えて市場価値だけが上昇して崩壊する。あるとき、買い手より売り手の方が多くなった瞬間から、実態価値まで一気に修正することになる。1630年ごろチューリップの球根によるバブル崩壊すらあった。最初は珍しく美しく咲く花に投資する人が現れ、その後「チューリップは好きでもなんでもないけど、球根を買えば必ず儲かる」と考えた人が借金をしてでも投機した。それにより実態価値を超えてバブル崩壊につながったのだ。

 

旅をすることは、お金について気づかされることが確かに多い。市場など他の選択肢が多ければ買い手が優位に立てる。また果物はもちろんそうじゃなくてもモノは腐る。だから売り手としては早く売ってしまいたい。でも、貨幣は腐らない。この点でも絶対優位。だから利子が生まれるのである。今や電子情報になり、燃やすことも破れることもなくなろうとしている。お金は永遠に近い不変性を手にいれた。私たちの寿命以上に。

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さて、これからの新しいお金との向き合い方。たとえば、カウチサーフィンにお金の出番はない。大切なのはページ上で可視化された口コミであり信用だ。そう、信頼はネットで可視化されるのだ。フェイスブックで誰と繋がっているか、もちろんリアルも大事だ。誰とつながるか、それが最も重要なのだ。つながりの時代。クラウドファンディングもそうだが、旗を立てていれば見つけてくれる人もいる時代になった。

 

「儲ける」という字は「信じる者」と書く。儲けることは自らを信じてくれる人と自らが信じる人を増やすこと。お金は人を幸せにするために生まれた道具。そのせいで命を絶つ、やりたいことを我慢するなんて馬鹿げている。知り合いが作っているモノ、多少高くても気にならないくらい買いたいという気持ちがある。ぼくにとって、その気持ちに素直に従って消費しながら投資する。そういう生き方をしていこうと思うのでした。

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