TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

「たたみかた」考えることから逃げてきた大人たちへ

      2017/06/02

 

思わず、ラブレターを書いたのははじめてかもしれない。

 

三根さん、たたみかた、読みました。
手に取ったとき、ほかの本とは違う手ざわりを感じました。素材の話ではなく、それは三根さんや奥さんが作ったという物語を少しだけですが知っているからかもしれませんね。誰が書いたか顔が見えないような雑誌は、ぼくにはもうおもしろくなくなってたんだなぁ、と気づかせてもらった気がしました。

で、パラパラめくってみると「すげえ!」と思いました。なにが「すげぇ!」なのか言語化できないのですが、なんだか、ひとり(3人なのかもしれませんが)で作った重みを感じるんですよね。出版社がたくさんのスタッフの手で作り上げてまんべんなくなった感じじゃなくて、「ざらつき」がある。ぼくは「匂いのある文章」とはなにか、というのを最近ずっと考えてるんですが、ものすごく匂いを感じました。

それから、まえがきでぐっと引きこまれて、「自分の正しさがどこからやってきたのか」とか「フツーに福島を語りたい、それが難しくなってる」とか、表紙に『30代のための文芸誌』って書いてありますが、ぼくにはとても共感できる話で、でも考えたことがなかったことばかりで。ぼくのために書かれた手紙のように感じてぐいぐい読んでしまいました。

ぼくがいちばんおもしろいと思ったのは永井さんのヒーローの話。三根さんの素直な感想である「言葉の限界があって、分かり合うことができない寂しさ」というのがすごくわかって、ぼくは「体幹として知っているか」という言葉でそれと似たような気持ちを掴んでいたのですが、それをひもといてもらった思いがあって。「こういうことだったんだ!」という思いと、同じ感触をもつ30代がいるんだという安心感をもらった気がします。「鎖国2.0」の話も、読んでよかったという発見がたくさんありました。

ちなみに少しでも広告しようと、池袋から湘南新宿ラインに乗って満員電車で表紙を見せびらかして読んでいたのですが、自宅のある辻堂で降りるのをやめて小田原まで行って、そこから引き返していた途中の茅ヶ崎で読み終えました。それくらい、途中で読み終えるのがもったいなく感じました。広告しようと、なんて考えは完全に忘れてました。

「たたみかた」と聞いて、ぼくは先進国日本であり続けられない中で、いかにゆるやかに着地していくか、豊かに退化していくか、という本かと思っていました。それは違ったような気がしますが、いい意味で裏切られてほんとうに、読んでよかったです。

 

『たたみかた』を読み終えてすぐ、ぼくはこんなメールを送った。送りたくなるほど、深く心に刺さったから。それも、ぼくにとって一番デリケートな気持ちのところで共感してしまったのだ。そう思いながら少し嫉妬した。ぼくも、誰かにそう思ってもらえる本を書きたいと思った。すぐに、三根さんからメールが返ってきた。本と同じ人柄を感じさせる「手紙のような」お返事だった。

『たたみかた』という文芸誌はミネシンゴさんと三根加代子さんが夫婦で「アタシ社」という会社を立ち上げて創刊されたもの。ほかに「髪とアタシ」という本もあって、これがまためちゃくちゃおもしろい。三根さん夫婦は、ぼくにとって憧れの背中なんです。

どこに憧れるかって、うまく言えないけど、三根さんはすごく「まっとう」なんです。誰に対しても公平で、ひとつひとつの気遣いがていねいで、メールやらなんやらの進化によって、ぼくたちが簡略化して忘れていってしまった「なすべきコミュニケーション」というものを、ものすごくていねいにちゃんとやっていて……と、言葉にしてみるとやっぱりなんか違うなぁ。うまく言えなくて口惜しいのだが、会えばわかる! それどころか、メールひとつでそれが伝わる。本になれば、なおさらだ。三根さんの言葉ににじみでる誠実さのようなものにぼくは憧れていて、だからぼくは三根さんが大好きなのだ。

そんな三根さんが、ぼくに「たたみかた」の感想文を頼んでくれました。それも、辻堂まで夫婦で会いに来てくれて、一緒にご飯を食べて、ぼくがずっと聞きたかったことに答えてくれて、写真を撮ってプレゼントまでしてくれた。ふたりにお会いしたあとは、なんかね、心地のいい「がんばろう」が湧いてくる。そんな思いのままに感想文を書かせてもらいました。

ぜひ、読んでみてください。

考えることから逃げてきた大人たちへ

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