不器用なカレー食堂/鈴木克明・鈴木有紀
週休3日&年に3ヶ月は長期休暇でインド旅行。そんなマイペースなカレー屋さんを営む夫婦の物語。
……というと、すごくのんびりしているように聞こえるが、むしろ逆。夫婦ふたりの小さなお店で誠実なインドカレーをつくり続けるにはそうしなければならない理由があった。
読めば読むほど納得で、それを本やブログ、店頭に貼り出す長い手紙で、しっかりと伝えようとしているからこそ、休んでも客足が絶えない人気店であり続けられるのだろう。
それにしても、カレーに賭ける熱量がすごい。インドで食べ歩く店舗数もさることながら、厨房にも入れてもらい、旦那さんがシェフに食らいついてメモしつくし、傍では奥さんがスパイス投入のほんの少しのタイミングも逃さぬようビデオをまわす。持ち帰ってその味を再現することは、旅を物語にして伝えることにも繋がっている。
DIYでつくったという内装へのこだわりも常軌を逸している。ビジョンが明確なのは自らが考え尽くしている証拠。好きで好きでたまらない、という熱がひしひしと伝わってくる。飲食店をやるにはここまで突き抜けないといけないのだなと思い知る。
毎年インドに通う中で、歩いたことがない道を歩き倒して、好きなお店には何度も通って、カレーはもちろんチャイ、食器、服、それに山。いくつかのキーワードを持って、バックパッカーが行かないところまで踏み込んでいくふたり。単なる自分探しの旅行記は今となっては飽き飽きするが、目的がハッキリした旅はこんなにもユニークで、おもしろい旅になるのかと教えてもらった。
そして、この本のいちばん好きなところは、夫婦で交互に文章を書いているところ。バラバラだったふたりの人生がひとつに重なっていくところ。重なった瞬間のカタストロフィたるやであるが、重なったあともふたりの視点が異なっていて、それにより補いあえていたり、それすらも似ていったり。そのバランスの良さに「まさに理想。こんな夫婦になりたい」と思うのでした。
それに何よりこの夫婦のように物語になる人生を歩んでいきたい。
桜新町の「砂の岬」。まずは食べに行ってみたいと思います。