TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

旅はワン連れ/片野ゆか

      2015/05/26

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ふいに民家の敷地内からシェパードくらいの大きさの犬が二頭あらわれた。いずれも鼻をフンフンと鳴らし、私のスカートや手にさげている布バッグなどを丹念に嗅いでいる。最初は怪訝な顔をしたが、ハッとして表情になったかと思うと、そろって「ウー」「グルルゥ」と威嚇モードに入った。

「旅はワン連れ」片野ゆかさんの著作を読んで思い出した記憶がある。場所はトルコのカッパドキア。様々なカタチをした奇岩と洞窟で有名な観光地だが、その割に人の少ない静かな村だった。僕が訪れたのは12月。泊まったのは洞窟ホテル。一歩外に出ると、人っ子一人いない荒涼とした大地が広がっていた。その閑散とした景色からも、気温以上に寒く感じたことをよく覚えている。

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本題はここから。寒さよりも頭を悩されたのが「野犬」でした。外を歩いていると、すぐに5,6匹の犬に取り囲まれて吠えられるのです。「ボクと遊んで~!」ではない。目がガチなのだ。完全に威嚇されている。ただでさえ犬は苦手だが、外国では狂犬病の不安もあり、ことさらに厄介だ。棒を拾って持ち歩き、犬が近づいてくるたびに振り回しては追い払い、そして追いかけられたものだ。

野犬は世界にいくらでもいる。たいていは、「シッ!」と言ったり、「食べ物なんてないよ」というアクションをしたら「クゥ~ン」と諦めて去って行くものだ。なのに、どうしてカッパドキアでは怒った犬にしつこく絡まれるのか。そのナゾが、この本を読んで解けました。

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タイトルの通り、犬連れでタイを旅をした著者。最初はタイの犬に威嚇されることなどなかったという。ところが、犬と四六時中一緒にいるうちに、一人でタイの町中を歩いているときでさえ、現地の犬に威嚇されるようになったという。その理由は、人間には分からないレベルの「犬のにおい」が体に染みついて「人間犬」になっていたせいだという。

その記述を読んで、思い出したのだ。泊まっていた洞窟ホテルが犬を飼っていたことを。とても人懐っこい犬で、僕も暇さえあれば撫で回していた。そうでなくても、ホテル内で常に放し飼いなので、すべての部屋に「犬のにおい」が染み付いていたであろう。そこで何泊もしていたわけだから、僕も「人間犬」になっていてもおかしくない。だから、野犬たちの縄張りに入ってくる犬のような僕を追い払おうと威嚇してきたわけだ。著者の片野ゆかさんはこう結んでいる。

こんなときは、目を合わせてはいけない。立ち止まらず、走らず、急がず、歩調を変えずに路地の端まで歩いていった。彼らのテリトリーはそこまでだったのか、ちょっと納得いかない雰囲気を残しつつUターンしていった。

「寄ってくるなよ」と、睨みつけて棒を振り回す僕の対応は、完全に間違っていた。正解は、目を合わせずに、何食わぬ顔で立ち去ること。犬社会の常識を知ることは、ワン連れでなくても、すべての旅人に必要である。

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