どうして博多なのに「イカ料理屋」なの? 桃鉄グルメぐり~博多編~
Wanderlustとは「旅への渇望」という意味である。旅ライターとして、年中旅を続けている僕にとって、旅への渇望が生まれた「原点」はなんだろう。考えてみると、それは「桃鉄」なのかもしれない。
念のため説明すると、「桃鉄」こと桃太郎電鉄は、日本全国を電車で旅するファミコンソフト。プレイヤーは電鉄会社の社長となり、全国各地に散らばる目的地駅をめざしてサイコロを振って進んでいく。その過程で、お金をためて各駅にある物件を買い、自社の総資産を増やしていくゲームである。
僕が小学生の頃に出会い、やりこんだのは「桃鉄3」。
当時、香川県高松市に住んでいた僕にとって、「高松駅」は誰にも譲れない駅だった。駅にある物件を全部ひとりで買い占めたいという意味なのだが、高松駅には「さぬきうどん屋」と「ゴルフ場」に並んで「和三盆工場」という謎の物件があった。
「和三盆ってなに?」
母親に聞いてみると、どこからか買ってきてくれた。漆塗りのお盆のようなものをイメージしていた僕は、和三盆がまず和菓子であることに驚いた。「高松はこれが有名なのか!」ひとつ、自分の世界が広がった気がした。
そして、興味は日本全国へと広がっていく。
名古屋の「ういろう」って何? 金沢の「あんころもち」って何? 出雲は「出雲そば」ばっかりだ! 東京は値段が高い物件ばっかりだ! 千葉は……なんか地味だ! 敦賀から小樽までフェリーで行けるのか! そもそも「敦賀」ってなんて読むんだ? 「小樽」は? 「稚内」は?
そうして、僕の頭の中に「日本地図」が出来ていった。
中学生になってプレイする機会は減ったが、大学で暇を持て余しはじめると仲間と再び桃鉄をやりはじめた。当時発売されていたのは「桃鉄10」。桃鉄3から比べると駅や物件も増えており、まだまだ知らない地名や名産品があることを知った。そして、実際に「ういろう」や「出雲そば」を食べに行くなど、桃鉄の物件を追いかけるような旅をした。
そして現在。部屋の片付けをしていると「桃鉄10」が出てきた。九州編もあるばい、というわけで九州の物件をチェックしてみると、博多の物件には「ラーメン屋台」や「めんたいこ屋」などがズラリ。うんうん、確かに博多名物だと思う。
でも、「イカ料理屋」ってどういうこと?
博多ってイカが有名だっけ? しかもこの物件は「桃鉄3」の頃から博多にあった常連物件で、「食品日本一」というイベントで臨時収入も輝きまくる好物件なのだ。
桃鉄の作者である、さくまあきら氏の証言を調べてみると、博多のイカ料理屋は「中洲河太郎」というお店が元ネタらしい。その美味しさを多くの人に知ってほしい。そんな想いが、桃鉄を開発するキッカケにもなったという。
さくま氏にとって「桃鉄への渇望」となった味とはイカなるものなのか。僕は博多に行ってみた。
「中洲河太郎」に着いてみると、なんとも高級感にあふれた店構え。
財布の中身を心配しながら店内に入ると、いけす、と言うよりリゾートホテルのようなプールが。イカたちはそこでゆったりと泳いだり、くつろいだりしている。プールを取り囲むように座席が並んでいて、席に着くと「どちらのイカがよろしいですか」と聞いてくれる。
泳いでいるイカを指差して、「あのイカで」とお願いすると、さっそく網ですくって料理してくれる。あっという間に刺身になって出てきたイカは美しく透明に輝いていた。じわんじわんと全身の輝きが強弱していて、足がもぞもぞと動いている。まさに活きている。
さっそく食べてみると、コリコリとした歯ごたえ。イカ特有のベタつきがない。それでいて、ほのかに香るように甘い。
ゆっくりと味わいながら食べていると、透明なイカに赤い斑点が浮かんでくる。どく、どく、と波うっている。これは血液なのだろうか? 女将さんに聞いてみると、そうではないという。イカにストレスが溜まることで赤くなるらしいのだ。
プールのようないけすは、イカにストレスを与えないためなのかもしれない。どおりでウマイわけだと感動していると、絶妙なタイミングで女将さんがやってくる。そして「足の部分はどうなさいますか?」と聞いてくれる。「天ぷらにしますか? 刺身にしますか?」と。
僕は刺身を選んだが、最後まで余さず甘い。博多まで来たかいがあったと思える味わいだった。
「フグ料理屋」も疑問である。
下関は有名だがなぜ博多? またしても、さくまあきら氏の証言を辿っていくと、その理由は、フグをはじめとする高級海産物は東京や京都、博多の料亭に買われていくから。原産地よりも都市部に美味しいフグ料理屋が集まっているので、博多の物件にフグを入れてみたそうである。
九州に行くこと自体がはじめてだった僕は、桃鉄の物件を頼りに博多をぐるっと巡ってみた。
「ラーメン屋台」を手に入れた!
「めんたいこ屋」を手に入れた!
「プロ野球チーム」というか、ドームを手に入れた!
「キャナルシティ」のモデルとなったカナリヤシティを手に入れた!
社長!これで博多の物件はすべてわが社のものとなりましたぞ!
桃鉄のおかげで、「これがウワサの!」と思えるのである。博多に行って何を食べるべきか、どこを訪れるべきか、その興味のとっかかりがあるのとないのでは大違い。そこに旅への渇望の原点があると僕は思うのだ。
ちなみに、ぼくが博多の物件に新しく加えるとしたら「博多うどん」。
「博多といえば豚骨ラーメン!」と言うのは観光客のセリフ。地元の人にとっては「博多といえばうどん!」そう教えてくれた方もいて、「うどんの発祥地は博多である」と言ってはばからない。
さぬきうどんで育った僕だが、博多のうどんは確かにウマかった。有名なのは「牧のうどん」だが、とある地元の人が勧めてくれたのは「大地のうどん」。見てほしい。博多のイカを思い出すような美しき透明感を。ゴボウの天ぷらも博多うどんの特徴である。
桃鉄の物件をめぐる旅。グルメだけじゃない「グルメぐり」。僕は九州をぐるりと一周する旅に出たわけだが、その途中で、あるニュースが飛び込んできた。
『桃鉄まさかの復活!完全新作「桃太郎電鉄2017 たちあがれ日本!!」を発表!』
信じられない。
もう二度と新作は発売されないと言われていたので、夜叉姫もビックリなニュースである。任天堂にもコナミにも誰にも頼まれていないのだが、この連載を読んで久しぶりに桃鉄をプレイしたくなる人が増えたらいいなぁ。そう思った博多編。
次の目的地は長崎です!