TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

これぞ、オンリーワンな旅メディア。「バリ島旅行のみかた」の「ホリさん」に会いに行く旅。

      2016/06/29

「バリ島旅行のみかた」って? 「ホリさん」って? それがスゴイんです。ぼくは、ホリさんが体現しているメディアは、大企業にはできないメディアであり、個人が資本に負けない旅メディアをつくるヒントがあると思いました。このインタビューでは、在住者にしか分からないインドネシア文化から、「言語を変えれば、世界が広がる」という言語学まで、メディアとの印象が違うとも言われるホリさんの真の姿に迫ります。

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現地在住ライターによる「返信率100%」。資本ではマネできない善意。

志賀:ぼくが「バリに行きたい」と思って検索をはじめてみると、ほしい情報のほとんどが「バリ島旅行のみかた」にあることに驚きました。「格安航空券はどこで買うべきか」「Wi-Fiはどれくらい使えるのか」「シャンプーや変換プラグなどの現地価格はいくらか」。物を持たずに安く、かつコスパの高い旅がしたいぼくにとって、どれも必要な情報ばかりでガイドブックにはない情報ばかり。しかも、「返信率100%」とメールアドレスが公開してあったので、思い切ってホリさんに連絡してみると、すぐに返信が。「会いたいです」と話したら、こうして会ってくれました。この時点ですごいメディアだなと驚いてます。

ホリ:メールBOXを開いたら問い合わせが10件以上あって、静かにPCを閉じることもありますよ(笑)。そのあとちゃんと返信しますが。

志賀:「そんなこと俺に聞くなよ」みたいに思うことはないんですか?

ホリ:ないんですけど、「このホテルに泊まるんですけど、周りにいいレストランないですか?」って聞かれて、グーグルマップでホテルの場所を調べてみると、めっちゃリッチなエリアにあるんですよ。さすがにこのエリアは行ったことねぇー!と思いながら必死で探しました。実際に行って食べ歩いてみたり。

志賀:すごい。そこまでやるんですね。

ホリ:でも、困ったのもあって。「子どもと一緒にバリに転勤することになったんですが、どこの学校がいいですか?」とか。さすがに分からねぇー!と思いました。

志賀:簡単に答えられませんよね……。

ホリ:はい。なので、バリに住んでる子持ちの日本人を紹介して連絡先をつなぎました。

志賀:あ。やっぱり、そこまでしたんだ(笑)。ホリさん自体がメディアであることもスゴイですが、サービス精神が旅行代理店を超えてますよね。こちらがお金を払ってるわけでもないのに、すべてが善意。今日も「志賀さんは何食いたいっすか? 行きたいって言ってたキタナシュランか、バリでしか食べられないアヒルの唐揚げか、イタリア人がやってる本格ピザか」と聞いてくれて。3つの選択肢が考え抜かれていて悩んじゃいました。結局、思ってもみなかったピザを選んだわけですが。

ホリ:インドネシア料理に飽きたころならピザかな、と思っただけです(笑)。でも、昔からデートプランとか相談されることは多かったですね〜。その人の代わりにあれこれプランを考えることが異常に好きでした。

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志賀:Facebookでさりげなくくれたメッセージにも驚きました。これを本気で実践できる人は本当に少ないと思うんです。とくに「バリ島そのものの味方でなくては」というところ。

ホリ:たとえば、志賀さんが洋服を買いたいとするじゃないですか。ぼくは「交渉の店と定価の店どっちがいい?」って聞きます。「交渉の店は、頑張れば定価の店より安くなるけど、交渉は自分でやってね」と。ぼくが交渉すれば安くはなるかもしれないけど、それはバリの人からしたら「チッ」という話になる。値段は言いませんけど、交渉のいいラインとしては、向こうがちょっとキレ気味なぐらい(笑)。ボスに値段を聞きにいくとか。まぁ、ヤマダ電気と同じですね(笑)。

志賀:インドネシアは、土地代によって同じビールでも値段が変わりますよね。バリには「サークルK」がたくさんありますが、同じ「サークルK」でも立地によって値札に書いてある値段が違う。ちなみに、バリ人にとっての「ジャパン旅行のみかた」になってあげるときもあるんですか?

ホリ:それが、制度的にかなり厳しいんですよ。いちばんネックなのが、銀行口座に100万円以上ないとダメということ。それがないと日本に入国できないんです。

志賀:ヒャクマンエン! そんなの日本人でも貯金してない人多いですよね。日本はインドネシアにそんな条件を突きつけたりしてるんですか。

ホリ:インドネシア人の月給は3万円ぐらい。毎月1,500円貯金するのが精一杯ですよ。

志賀:つい最近、日本からインドネシアに入るのにビザがいらなくなりましたよね。そういうのは等価交換なイメージでした。

ホリ:それはたぶん、大統領が変わったからですね。制度をすべて見直したときに、インドネシアとしては観光客が増える分には、ただただプラスであると判断したんでしょう。

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志賀:ホリさんは「バリ島旅行のみかた」で記事を書くとき、どんなことに気をつけているんですか?

ホリ「バリに来る人のためになるか」を第一に考えますね。ただの在住者の自己満足ブログにならないように、記事作成の前に「キーワード決め」や「検索ボリュームの調査」はしっかりとやります。こういう記事を書いた場合、今ネット上にあるどのサイトのどの記事とバッティングするかなーとか。ただ、それも行き過ぎると情報サイトに寄りすぎちゃって、人間性が消えてしまうので、たまにはふざけた記事も書きますし、規模の大きいサイトと内容がほとんど被っていても、書いたりもします。書く人が2人いれば、2つの真実がありますしね! あとはもちろん一度、紙に書いて「起承転結」の文章構成は考えますね。なので、バリ島旅行のみかたは4コマ漫画みたいなものです。

志賀:ネタがなくなったりしませんか?

ホリ:ないですね~。書きたいことはまだまだあります。ネタ探しという意味では、一日中路上に座っていたこともありました。そしたら「田舎からバリに出てきて、これからはじめて観光客に声をかける」という青年と仲良くなって。簡単な日本語を教えてあげて、「ほら、あれは日本人だから話しかけてみ?」って背中を押して、彼が一生懸命「コ、コンニチハ!」って声をかけたんですが無視されちゃいました。彼もすっかりヘコんじゃって。「ごめん……あのね、日本人はシャイでね、ガイドブックにも気をつけろって書いてあってね……」って慌てて謝りました。仕方ないことでもあるけど、欧米人とかと比べても日本人はとくに無視しますね。

志賀:それはヘコむなぁ。欧米人は断りかたがスマートですよね。ファインサンキュ〜と言いながら軽やかにかわすというか。インドネシア人も日本人と似てシャイだし、インドネシアと日本との共通点って多いと思いませんか?同じ島国で、稲作文化だったり、地震が多かったり、ヤオヨロズの神を信じているところとか、根っこの部分が似ている気がするんですが。

ホリ:そうですね、人の顔色を見ながら話したり、「空気を読む」的な、あの独特な文化もバリ島にはありますね。

志賀:ホリさんはバリに住みはじめて1年が経ったとのことですが、バリのベストシーズンはいつだと思いましたか?

ホリ3月に「ニュピ」という祝日があるんですよ。ガイドブックには「この日は避けましょう」みたいに書いてあるんですが、ぼくはむしろ逆で。ニュピというのは、みんなで静かに瞑想して島から悪霊が去るのを待つ日。お店も交通機関もすべてがストップするんです。仕事をしてはいけない、外に出てはいけない、灯りもつけてはいけない。空港でもトランジット以外の乗り降りはできないんです。それくらい徹底しているから、夜になると真っ暗になるんですよね〜。そのときの星空が本当にきれいで。

志賀:バリのような都会でも満天になる夜があるなんてロマンですね〜。そういえば、今朝、SIMカードを売ってるチャラチャラした格好の店員が、店の前で真剣に慣れた手つきでお祈りして線香のようなものを焚いているのに驚きました。あれは何なんですか?

ホリ:「チャナン」ですね。インドネシアでは地面に悪い神様がいると言われていて、それを鎮めてるんですよ。子どもでもお祈りの仕方は知ってますし、宗教に関してはみんな熱心です。

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バリ語とジャワ語とインドネシア語。言語を変えれば、世界は広がる。

志賀:バリで「お疲れさま」ってなんて言うんですか?

ホリ:ないですね。バリ人は疲れないんで(笑)。観光エリアに限って言えば、バリ人で働いている人ってあんまりいなくて「土地貸し」が多いと言われているんです。借りるのはジャワの人。観光客が出会う人のほとんどがジャワ人ですよ。バリ人は田舎でいいもの食べてのんびり暮らしてる。

志賀:バリ人とジャワ人って、顔は違うんですか?

ホリ:違うっていいますけど、ぼくらにはわからないです。体格とかで分かったりしますけどね。すごく太ってたりするのはだいたいバリ人です(笑)。言葉も違いますよ~。「ありがとう」はバリ語で「クスマクスマ」、ジャワ語で「マトゥール ヌワン」、共通語であるインドネシア語がおなじみの「トゥリマカシ」。

志賀:バリ島とジャワ島って、本州と四国ぐらいしか離れてないのに言葉が全然違いますよね。沖縄ぐらい離れてたらまだ分かるんですが。ホリさんはインドネシア語がペラペラですよね。

ホリ:インドネシア語は簡単ですよ。一年いれば誰でも話せるようになります。ぼくは「一夜漬けインドネシア語」という本を三日徹夜して一気に覚えました。あとはインドネシア人に話してみて発音をチューニングしてもらう。インドネシア人の国民性というか、いいところだと思うんですけど、つたないインドネシア語でも「聞こうとしてくれる」んです。

志賀:欧米人だと「コイツの英語はよく分からんからもういいや」って会話を諦められちゃうことがありますもんね。

ホリ:インドネシア人も英語ができませんから。彼も彼女も関係なく「she」なんで。そもそもインドネシア語に過去形がないから、英語になったときも原型で話そうとしたり。そもそもインドネシア語は、オランダから独立するときに生まれた新しい言葉だから、かなり合理的で簡単にできてるんです。山奥の民族にも教えなくてはいけないわけですから。

志賀:それにしてもペラペラなのはすごいです。

ホリ:言葉って、そこにモノがあればラベルを貼るように生まれると思っていたんですが、文化圏によって必要性があるモノから順番に生まれていくんですね。たとえば、ぼくはバイクをいじるのが好きなんですけど、ボルトの名前っていっぱいあるんですよ。それって、ぼくが「バイクカスタム文化」に入ったから、ボルトのひとつひとつに名前があることを知ったわけです。バイクカスタムをしない人にとっては「ボルトはただのボルトじゃん」となる。

志賀:「エスキモーは雪という言葉を52種類持っている」みたいな話ですね。

ホリ:そうっすね。日本ってあまり肉を食べる習慣がなかったじゃないですか。鶏肉はchiken、豚肉はpork、牛肉はbeefですが、日本語だと肉という単語を形容することでひとつの熟語としてなりたっていますが、英語だと別々の単語ですよね。つまり、英語圏の人たちには全く別の言葉である必要があったんです。逆のパターンで言えば「brother」。日本だと「弟」と「兄」で、別の言葉がありますよね。日本では上の人を敬うという文化と必要性があったから、言葉を分けるんです。何が言いたかったかというと、「言葉は世界」ということ。言語を変えれば、世界は広がる。インドネシアに来たら、インドネシアの言葉を学べますけど、そうして新しい言葉の必要性に身を投じていけば、自分の世界が広がると思うんです。

志賀:「広がる」に対してですが、いま方丈記を読んでいるんですが、日本の古典を読むと、世界が「深まる」と思います。今の時代に通ずる日本の精神が言語化されていたりして。

ホリ:方丈記と言えば、ソローの「森の生活」を思い出しますね。そういえば、ソローを読んで旅に出る好きな映画があって。実話をもとにした……あれ? なんだっけ……。「物忘れをする」ということは言葉を忘れることなので、ぼくの世界は狭まっているということですね(笑)

志賀:イントゥ・ザ・ワイルド?

ホリ:そうそうそう!広げれば広げるほど、ぼくの世界がインドネシア語で埋め尽くされていく(笑)!

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「太陽のせいだ」と話す異邦人。哲学科出身のホリさんが、バリに移住した理由。

ホリ:バリ島の入り乱れた文化は本当におもしろいので、いつか文化人類学について本を書いてみたいです。

志賀:「文化人類学」って何ですか?言葉は聞いたことあるんですが……

ホリ:学問を説明するのは難しいですが、たとえば「レヴィ・ストロース」が有名です。ぼくが大学生のときに亡くなって、ニュースでも小さく出てたんですが、大学の哲学科の教室では「ねぇ、知ってる?レヴィ・ストロースが死んだらしいよ」「あのレヴィ・ストロースが!?」ってなるぐらいの大事件でした。

志賀:哲学科ってほんとナゾ(笑)

ホリ:彼が言うまでは、アフリカ人も月日が経てばヨーロッパ人みたいになるというのが世界の常識だったんです。アフリカ人には教育と時間が足りていない。でも、人間としての中身は同じだから、そのうちヨーロッパみたいにビルを建てたり資本主義の中で進化していくよねって。でも、彼がそれは違うと言った。アフリカ人にはアフリカ人の発展の仕方があって、ヨーロッパとは違う未来に行くだろう、と。それを言ったのが文化人類学でいちばん有名なレヴィ・ストロースですね。

志賀:ホリさんはアンチ資本主義なところありますよね。

ホリぼくにとって資本主義は「止まれない歯車」なんです。たとえば、エアコンを例にします。エアコンって毎年新しいモデルが出るんです。それは、出したいからではなく、出さなければいけないという状況だから。去年のモデルでいいよとなると、設計する人、デザインする人、パーツを作る人、たくさんの人が路頭に迷う。大きな歯車が回らないと小さな歯車が回らない、そんな止まれない歯車。そのおかげで自殺する人までいるじゃないですか。ぼく、大学の卒論のテーマが「不条理と自殺」だったんです。

志賀:どういう社会だと理想ですか?

ホリ:止まれないのであれば、新しい仕組みをつくりたいですね。「資本主義で頑張ってみたけど、やっぱだめだー、もう死ぬわー」という人に、「いやいや、ちょっとこっちこい」と言えるようなセーフティーネットとなる場所。ぼくが日本にいるのキツかったんで、とりあえずバリに来たように。

志賀ホリさんは、好きな時に好きなように日向ぼっこしたいからバリに引っ越したんですよね。そんなに日本がキライですか?

ホリ:道路が整備されていることにもイライラしてました(笑)。道路が綺麗かどうかって完全に各個人の感性による話じゃないですか。東京の道は綺麗だと言う人が大半ですが、「最大多数の最大幸福」ですよね。マジョリティが勝って、それに前習えをする感じがキライというか。ぼくからしたら、タバコが落ちてても汚いと思わない。葉っぱだし、もともと木じゃないですか。だったら自販機のほうが汚い。ぼくはそう思うんです。

志賀:電車の中で電話するのはアリかナシか、というも似てますかね。

ホリ電車で言えば、広告も嫌いでしたね。日本の広告ってうまいんですよね。人の意識に入り込むのが。だから電車でも街でもいろいろ入ってきちゃって、静かにならない。ぼくは学生時代にバイクにテントを積んで山に行ったりしてたんですが、そのときは本当に静かで。2週間ぐらい森の中にいたりすると、街に出てきたとき、うるさくてしかたがない。読んで分かるような視覚情報も、聴覚も、嗅覚も。もう情報だらけで、街中が「ドン・キホーテ」みたいですよ。

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志賀:バリのごちゃごちゃはうるさくないんですか?

ホリ:漢字だと「秒」で頭に入ってくるじゃないですか。バリだとアルファベットだし、インドネシア語も多いんで、注意しても読めないんです。ぼく、ケチつけたがりなのかもしれません(笑)。哲学ってそういう学問じゃないですか。ある人の論があったら、どこにケチつけたら新しい論になるか。その繰り返しの歴史なので(笑)。ところが、バリにいるとケチつけるところがないんです。

志賀:日本でケチつけまくった結果……

ホリ:こうなった(笑)

志賀:いや~、「バリ島旅行のみかた」とのギャップが深まりますね(笑)

ホリ:ふふふ

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「記事のテンションが高すぎて、会う人会う人にもっとウェーイって感じかと思ってましたって言われる」と笑うホリさん。このインタビューでも、「メディアとの印象が違う」とギャップを感じる人もいるかもしれません。でも、それは違うとぼくは思いました。

この日訪れたレストランや、二次会で連れて行ってもらった街スパで、現地のインドネシア人と世間話をはじめたホリさんの姿は、「ウェーイ」とは言わずとも、陽気に話して大きく笑うその姿。「バリ島旅行のみかた」というメディアから伝わるホリさんと同じテンションがそこにありました。それこそが、脱日本を果たして、バリという居場所を見つけたホリさん本来の姿なのかもしれません。

>>バリ島旅行のみかた:http://bali-no-mikata.com

ホリさん、この旅は、ほんとうにありがとうございました!

>>【寄稿】バリ島で「サーフィン合宿(7泊9日)」したら、航空券とホテルも含めて10万円ぐらいで済んだ。

 - バリのり, 旅人100人会えるかな