TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

共感のち、メッセージ。

      2018/02/10

「情報ではなく物語を。」

ぼくたち ON THE TRIP のあいだでは合言葉のように使われているキーワードだ。しかし、物語とは何か、どういうものなのか。それを語れるメンバーはいない。

ぼくは過去に ON THE TRIP で書くことは「体験に近い文章」を書くことだと言ったことがある。

ぼくは、本に対する理解というものは体験のあとについてくるものだと思っています。自身が体験として知っていることを、本によって言語化されているのを目の当たりにしたときにはじめて体得して定着することができる。それが、本を理解するということ。逆に、背伸びをして読んだ本の中にどれだけいいことが書いてあっても、分かったような気にはなるけど、結局は分からないまま、すぐに忘れていってしまう。

ON THE TRIPのガイドは、旅先で「その場で」読むことを想定したメディアです。これは、より体験に近い文章が求められるということ。その場所にあるものをどう生かすかという意味でも、事前に読むことを想定したこれまでのガイドブックとは違います。もしかすると、ぼくたちがやろうとしているのは、「体験と本にある言葉の距離を近づける」ことなのかもしれません。「その場で」体得して定着して理解できるようなコンテンツで。旅は原体験の宝庫なのだから。

これは、ON THE TRIP で書くことにおいて、ぼくの中でのいちばんのテーマだ。その旅で体感すべき原体験に導き、その場で言語化されることによって、忘れられない旅にしてもらう。ぼくたちのガイドはそうでなくてはならないと思っている。

その旅で体感すべき原体験に導く。

そのためには、その旅人の過去の記憶を呼び覚まさなければならない。映画における感動のメカニズムと同じだ。スターウォーズなどの普遍的な物語には、「失敗から学ばねばならない」というような印象に残る言葉が出てくる。なにも目新しいことを言っているわけではない。それでも、そのセリフが生まれるまでの物語構成によって、過去が呼び起こされ、その言葉に深く感動するのだ。

物語とは「主人公が自分に欠けたものを埋めるお話」だと言われる。スターウォーズでレンが「父親の影」を埋めるように、「プラネテス」でハチマキが宇宙船を買うという夢を埋めるように、ねじまき鳥クロニクルで、ワタナベノボルが消えた妻の穴を埋めるように、だ。一方で、これまでのガイドは「旅人が知らないことを、知らせる=埋める」でしかなかったように思う。小説ではなくトラベルガイドである以上、それは間違ってはいないのだが、感動が足りない。その前にあるべき「共感」が足りないのだ。

もしかしたら、ここでいう「共感」とはコピーライティングの要素に近いのかもしれない。広告コピーは、共感のち、メッセージ。そして、解説。この三段論法が基本だろう。たとえば、新しいスマホはカメラの画素数がすごいんです。と、クライアントの言いたいことを、そのまま言うだけならコピーライターはいらない。その前に「インスタの画素数が荒れていませんか?」と共感を誘うこと(たとえがめちゃくちゃだけれど)。共感のち、「だから画素数がすごいスマホが必要なんです」と言う。メッセージの前の段階の「共感」を見つけるのがコピーライターとしての仕事の大前提なのだと思う。

次に書くガイドは、「共感の生成」をテーマにしてみたいと思う。その場所にあるいちばん大切なメッセージ(キーワードではない、メッセージだ)にたどり着くまでに、どんな記憶を思い出してもらうべきか。そしてそれは、旅人にとっての「欠けているもの」でなくてはならない。そうして、「心の動き」をガイドによって活性化するのだ。それが整ったところで、メッセージを打ち出す。そして、そのメッセージがどういう歴史背景から発せられているのか、あるいは残されているのか。その理由を言語化して解説する。これがひとつの「物語のあるトラベルガイド」のモデルケースになるのではないか。そんな仮設を実証してみたいと思う。

忘れてはならないのが、ここでいう「メッセージ」こそがキモであること。その場所が発しているメッセージとは何か。取材やインタビューは、それを見つけるためにある、のかもしれない。

 

《メモ:物語の黄金比率とは?》
法則1:共感のち、メッセージ。
その場所が発しているメッセージとは何か。そこにたどり着くまでにどんな記憶を思い出してもらうか。

 - ON THE TRIP