TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

信じられる人は「目」でわかる(2日目-1)

      2016/11/23

 

 

ビーーーーーーーーッ!

 

悪魔のようなクラクションで目が覚める。断ち切られた夢のあと。その目に映るは「見知らぬ天井」。ネットリと薄暗い部屋の空気が時間感覚を麻痺させる。

『ボクハ インドニ、イル』

そんなはずはない、と脳が現実を否定する。シナプスが発する信号という信号が大渋滞を起こしている。無理もない。昨日までそこに映っていたのは、安全が約束された「見慣れた天井」だったのだから。

 

時刻は午前8時。ベッドに張り付いた体を引き剥がすように起き上がると、部屋の片隅から頼りない光が見えた。窓から外を眺めると、リキシャがクラクションを、人々が怒号を、牛が鳴き声を、それぞれが叫びながら動きまわっている。日常をこえた劇場が幕を開けていた。

『僕はインドに、いる』

その光景が目に馴染んでくると、脳が起こした反乱とも言うべき混乱は、波が引くように去っていったのだった。

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1階に降りると、眠い目をこすりながらスマホをいじくっている「ラシール」がいた。

「昨晩はありがとう」

そう声をかけると、よく眠れたかい?と言うようなウインクが返ってきた。

「ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど」

そう切り出して、ATMの場所や、街の情報について教えてもらう(ATMには即行したが、すんなり現金が手に入った)。ケララ州へと南下する予定だと話すとラシールの目が弾むように輝いた。母国語から離れると、相手の目の動きに敏感になる。目は口よりも語りはしないが、語りよりも信じられる。ラシールは言う。

「僕の出身もケララなんだ。すごくいいところだから、ぜひ行ってみてほしい!よかったら弟を紹介するよ!いまもケララに住んでるから」

…紹介?

「あやしい!」と思うか、「うれしい!」と思うか。
旅の分かれ道はソコだったりするわけだけど、僕は「うれしい!」と思った。目を見れば、ラシールが騙そうとしているわけではないと分かる。

「今夜の夜行バスで行くとして、それまでここで何するの?」

「バンガロールは大都会なんだよね?だったら、最も栄えてる場所に行ってみたい」

「だったらMGロードだね。深夜バスのチケット、取っておいてあげようか?」

値段を聞くと1,000ルピー。高いのか安いのか、インドに来たばかりの僕には分からない。でも、少なくとも僕は、これから歩き回って幾分安いチケットを手に入れるより、2,000円でラクできるならそれがいい、一日バンガロール市街を探検できるほうがいい、そう思った。僕はもうバックパッカーではないのだろう。手ぶらなのでバックパックも何も背負っていないが、そういう話ではない。前に旅したときは「10ルピーでも安く!」「1ルピーもボラれてたまるか!」とやっきになっていた。でも今は違う。ボラれてもいい、というわけでもない。物の価値を、自分で決められるようになったのだ。

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バンガロールNo.1の繁華街「MGロード」に向かう、その前に。宿の周りを散策することにした。夜の雑踏は薄気味悪かったが、昼はその暑さもあって肌にへばりつくような雑踏に変わっていた。このあたり一帯は下町のようで、昔ながらの個人商店が軒を連ねている。外国人の姿は見つからないが、そう珍しいわけでもないのだろう。ジロジロ見てきたり、話しかけてくる人はいない。

公園では、奥さんたちが井戸端会議。どこの国も同じだなぁ、と思いきや、親父たちも会議してるのがインドらしい。迷路みたいな路地街をひとしきり巡り歩いたところで、“流しのリキシャ”を捕まえて「MGロード」へ向かう。ちなみにMGとは、マハトマ・ガンジーの略である。日本で言う「桜坂」のようなもので、インド中に同じ名前の通りがある。
ブロロロロロ……と30分。下町を抜けると、ようやく都会らしくなってきた。静岡の中堅都市ぐらいだろうか。しかし、降り立った中心街はシャッター街。聞くと、日曜日ということもあり12時まで店は開かないという。

スマホの時計を見てみても、まだ10時。通りを歩いていても、うるさいリキシャ乗りがしつこく話しかけてくる。

「ヘイ!乗ってけよ!」

「この辺りの店は休みだよ!乗ってけよ!」

「おまえ、どこに国から来た!乗ってけよ!」

とにかく「乗ってけよ!」である。散歩したいだけだから、と振り払って歩いてみるが、本当にどのお店も閉まっている。暇だ、てか、暑い。そこに、しつこいリキシャがまた話しかけてくる。

「1日100ルピーで観光名所すべてまわってやるぜ?」

 

つづく↓
もう騙されない!悪徳リキシャの見分け方(2日目-2)

 - 手ぶらでインド