TRAVERING

なぜ旅に出るのか?そこに地球があるからさ。

インド人のイスラム教徒の暮らし(3日目-2)

      2016/11/23

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途中でアチューの車に乗り換える。
日産のサニー。なんだか懐かしい響きだけど、とてもキレイに使っているみたいでインドらしくない清潔感がある。「いい車だろ?」と得意顔のアチューに、グッド!と返しながら、僕は別のことを考えていた。
大学生が車を乗り回しているなんて、7年前の北インドの印象とは大きく異なる。これが中国を抜いたインドの経済成長率の成果なのか。彼らはいわゆるバラモン的な大富豪とは明らかに違う。おそらくは中流層。だからこそ驚かされる。南インドは北インドより裕福だとは知っていたが、それはなぜなのか。

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車の運転席にはコワモテすぎるオジサンがいた。
年は40ぐらいだろうか。身長も190cm以上ある。彼の名はアリ。アチューの叔父にあたる人。普段はドバイに出稼ぎに出ているらしく、インドに帰れるのは年に1度の長期休暇、たったの40日だけ。それが今、という話だった。ドバイ仕込みなのかアリの英語はとてもきれいで聞き取りやすい。突っ込んで聞いてみると、テヌーもアチューもアリも、もちろんバンガロールのラシールも、彼らは全員ムスリムだった。ヒンディー教徒が80%を占めるインドでは、ムスリムは圧倒的少数派。アリがドバイで働いているように、労働力を必要とするお金持ちアラブ諸国は、インド人イスラム教徒を積極的に雇用する。そして、イスラム教徒の多くが南インドで暮らしている。裕福に見えるのはそういう理由もあったのだ。

「お昼ごはんは何が食べたい?」

アリは見た目と違ってすごく大人で穏やかな人だった。テヌーとアチューがやんちゃな若者だったので、ホッとして打ち解けることができた。

「ローカルフードなら何でも!たとえば、ミールス!」

ミールスとは南インドの代名詞「カレー定食」。大きなバナナの葉っぱの真ん中に、ドカンとごはん!その周りに色とりどりのカレーたち!というアレだ。お昼にしては遅い時間だったのだが、店の中は人だらけ。大人気の食堂に連れてきてくれたみたいだ。車でだいぶ走ったし、ガイドブックには絶対載ってない。

「クーラーがある席か、ない席か、どっちがいい?」そう聞かれたので、ない席でいいよ、と答える。すると、さらに一段階、人で賑わう庶民ゾーンに通された。
「ウェルカムジュース」と言って渡された食前のミントジュースがまたウマイ。甘さと爽やかさのノドごしが南インドの熱気を洗い流してくれるよう。そして、ミールス!これはもはや神の味。ウマイウマイと語っても、店の名前も行き方も分からず、イヤ味にしかならないので止めておこう。

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食べ終わると、アリの実家に連れて行ってくれることになった。大通りは国道1号線のようで、大型店がいくつも建ち並んでいるのだけど、脇道に入るとすぐに舗装もなくなり、緑が生い茂り、田舎っぽくなっていく。
アリの実家は、日本の田舎の一軒家のようだった。石垣の塀に囲まれた敷地に、手入れの行き届いた庭があって、端正な一軒家が建っている。ランドクルーザーが止まっていたが、あくまで邸宅ではなく、実家という感じ。塀の裏側には線路が走っていて、思わず寝転がって写真を撮りたくなった。すると、隣にいたアチューが顔をしかめる。

「線路はダーティーだよ」

はっ、と思い出す。インドの列車は線路にうんこを撒き散らすボットン列車だったことを。しまった、と思った頃にはもう遅い。シャツにはうんこがついていた。

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実家に続いて、アリの現在の家に向かう。
単身赴任が長いのもあって、休暇中は奥さん一家と暮らすマスオさん状態のようだ。家には美人すぎる奥さんが出迎えてくれて、外国人の僕にも嫌な顔ひとつせずもてなしてくれた。8歳の娘さんも美人のタマゴ。コワモテ(アリ)のおもかげはどこにもない。5歳の息子もいるのだけど、ふたりとも、久しぶりのパパに会えるのが嬉しくてたまらないらしくアリに抱きついて離れない。

微笑ましく見つめながらも次の目的地へと車に戻る。テヌーとアチューそして僕は、これから「ムーンナー」という避暑地に泊りがけの小旅行へ出かける予定になっていた。アリも一緒に行きたいと言っているらしく、家族にそう告げている。奥さんは、どうぞいってらっしゃい、って顔をしてる。問題は娘さん。それを聞いた途端、コマ送りのスローモーションのようにみるみる表情が曇り出し、ついには泣き出してしまった。年に40日しか会えないのだから当然かもしれない。でも、それなのにしっかりとお父さんとして愛されているアリが改めてすごいと思った。

結局、アリも同行してくれることになり、テヌーとアチューの家に寄ってムーンナーに向かう。テヌーとアチューは家もお隣さんで幼馴染。どおりで仲がいいわけだ。小学生のようにじゃれあう姿にも納得というものだ。
さぁ、荷物も持ったところでムーンナーに出発だ。

 

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ガイドブックはいらない、現地の人が一番のガイドです(3日目-3)

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